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ヨッ、調子どう?

【コラム】20歳とソラニン

 

※2017年1月に書いたコラムです。

 

 

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今日は1月6日。

 

成人式まであと3日だってのに、俺は新年早々インフルになって寝込んでいる。母親に冷えピタ貼ってもらったり手厚く看病されたりと、とにかく格好悪い。

 

ツイッターではみんな初詣や新年会の写真をあげたりしていて、浮かれている。いや、浮かれてると書いたが実際羨ましい。

 

俺はもうすぐ社会的に一人前の大人として認められるというのに、布団の中で鼻をズルズルさせながらツイッターの画面をスクロールしている。

 

こんなんじゃなかった、こんなはずじゃなかった。俺が思い描いていた二十歳は、こんなやつじゃなかった。

 

 

浅野いにお原作『ソラニン』の主人公、芽衣子は東京のどこにでもいるOL2年目だった。

 

「あたしが思うに、大人は”まぁいいや”のカタマリだ。
おなかが出てきても まぁいいや。鼻毛が出てても まぁいいや。
捕まらなければ まぁいいや。ココロなんて無くても まぁいいや。
どこかで戦争や災害が起きてたくさん人が死んでも自分が幸せなら まぁいいや。この会社は給料がいいから まぁいいや。」
(ソラニン1巻より)

 

 

大学を卒業後、とくにやりたいこともなかった芽衣子はまぁいいやと自分に言い聞かせて日々をやり過ごしていた。想像していた未来と、現実が徐々に離れていくのを肌身に感じながら。

 

そんな芽衣子の彼氏、種田もフリーターをしながら心の奥底ではバンドの夢を捨てきれない都会の青年だった。

 

「…だって俺はまだ心のどこかで、自分はすごいことができるんじゃないかって思っちゃうんだよ。高校で始めたギター。大学で知り合った気の合う仲間。インディーズを経ていつかメジャーでデビューして。ファーストがじわじわ売れてセカンドで火がついて。即完満員の武道館で。ラストの曲が終わっても、俺はムスタングでAメジャーセブンのコードをこれでもかと掻き鳴らして、右手の握りこぶしを高々と掲げるんだ。」
(ソラニン2巻より)

 

 

そんな芽衣子と種田に、今の自分の姿が少し重なる。

 

二十歳っていってもまだ学生だし、大層なものにはなれない。来年は就活だなんだっていっても、まだまだ現実味がない。いつまでも子供でいたい気もするし、そうじゃない気もする。大人になるってなんだろう、幸せってなんだろう。成人式を控えた男が、まるで思春期のような悩みだ。

 

 

《-たとえばゆるい幸せが/だらっと続いたとする/きっと悪い種が芽を出して/もうさよならなんだ》

 

 

これは種田が作った”ソラニン”という曲のサビのフレーズだ。この曲は映画化のさいに主題歌としてASIAN KUNG-FU GENERATION
によって音源化された。

 

 

《-昔住んでた小さな部屋は/今は他人が住んでんだ/君に言われたひどい言葉も/無駄な気がした/毎日も》

 

 

芽衣子も種田も、本当はわかっていたはずだ。青春はいつまでも続かないことや、自分のプライドより大切なものを認めて大人にならなくちゃいけないということを。わかっていたからこそ、そこから逃げ出したくなった。

 

これは平凡で普通の話だ。納得のいかない自分と折り合いをつけなければいけない瞬間が、きっと誰にだってある。子供の頃から夢見ていたサッカー選手に実際になれる人がどれだけいるだろうか。毎朝満員電車に揺られながら通勤するサラリーマンがどれだけいるだろうか。

 

守るものが変わっただけだ。優先順位の1位が自分じゃなくなっただけだ。

 

 

《-あの時こうしていれば/あの日に戻れれば/あの頃の僕にはもう/戻れないよ》

 

 

種田は最期に、それに気がついた。東京で大切なものが見つかった、彼は父親にそう言い残し芽衣子とともに生きる道を選んだ。幸せ?という自分への問いかけに種田は泣きながら赤信号に突っ込んだ。

 

 

布団の中で俺は一人つぶやく。

「大人になんかなりたくないやい」

 

そりゃあそうだ。誰だって大人にはなりたくない。できることなら一生高校生活をループしていたい。しかし現実は非情なもんで、3日後は成人式だ。昔仲良かった友達が大人っぽくなってたり、やんちゃだった女の子はもうママになっているかもしれない。

 

みんな大人になったふりをして、「今まで関わってくれたすべての人と、ずっと支えてくれた家族ありがとう」と世界で一番幸せかのような笑顔をインスタグラムに振りまくのかもしれない。

 

俺も二十歳と、自分の今の姿に折り合いをつけなければいけないのかもしれない。いつまでも昨日の自分ではいけないのかもしれない。

 

 

《-たとえばゆるい幸せが/だらっと続いたとする/きっと悪い種が芽を出して/もうさよならなんだ》

 

 

ジャガイモの芽には、ソラニンという毒がある。

 

気付かない間に身体に毒がたまっていって、俺たちは大人になっていく。

 

小学生のとき、こんなことを聞かれた。

「将来どんなおとなになりたいですか?」

 

二十歳の俺はこう答える。

「今の自分に、胸を張れる大人になりたいです」

 

 

《-さよなら/それもいいさ/どこかで元気でやれよ/僕もどーにかやるさ/そうするよ》 

 

 

 

ソラニン 1 (ヤングサンデーコミックス)

ソラニン 1 (ヤングサンデーコミックス)

 

 

 

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