シカゴからロサンゼルスまで

ヨッ、調子どう?

My Hair is Bad「mothers」の全曲レビュー&考察

 

f:id:kashiwasita:20171121183630j:image

 

 

My Hair is Badの3rdアルバム『mothers』が11/22(水)に発売された。本アルバムを引っ提げて来年の2月から行われる「ギャラクシーホームランツアー」では武道館2daysが決まるなど、その勢いは止まるところを知らない。

 

今回はそんなマイヘアのアルバム「mothers」について、どこよりも早く解剖し、その全貌を明らかにしていきたいと思う。

 

 

f:id:kashiwasita:20171121221415j:image

 

 

 

前作『woman's』からの進化、女から母親への脱皮

 

約一年前に2ndアルバム『woman's』をリリースし、年間180本という人並み外れたライブの忙しさの中で製作されてきた今作。

 

タイトルを見た限り続き物のように思えるが、椎木知仁(Vo.&Gt.)いわく前作から一段階ステップアップしたのが今作の立ち位置だという。

 

椎木のポリープ治療期間から製作がスタートし、機材も総入れ替えして文字通りバンドサウンドはじめ歌詞のスケールも進化した内容になっている。

 

 

1曲目「復讐」では、今までありそうでなかった邪道で偏屈な恋愛観が存分に散りばめられていて、3分足らずの曲なのにマイヘアらしい疾走感のある爆発的サウンド、アルバムの最初にぴったりな役者である。

 

バヤリース(Ba.)いわく、エゴサをしていたら「マイヘアのベースは簡単だよね」と言われていたことに腹が立ち、この曲はベースラインを入れられるだけ詰め込んだという。それがこの曲の底知れぬサウンドの奥深さを生み出している正体なのかもしれない。

 

2曲目「熱狂を終え」は、マイヘアお馴染みのコード進行で衝動的でアップテンポな仕上がりになっている。期間限定でYouTube上に公開されているMVは、彼らのライブツアーに密着した映像で椎木は「今作で唯一ライブで歌っている姿が想像できる曲」と語っている。

 

前作アルバムのリード曲「告白」のような展開構成、単語の韻を重複させる歌詞をここでも使用しつつ、さらに幅を広げてマイヘアらしさを全面に押し出している印象を受けた。

 

3曲目「運命」は、男女の別れを男目線で描いたシングルカット曲であり、以前にもこのブログで散々傑作だということは書いてきたが、椎木は相当この歌詞を完成させるのに苦しんだという。

 

日比谷野音(5月4日)のワンマンの前日あたりに銀座のスタジオで完成させるはずが、全く書けず当初のイメージを変えたのが功を成したのだとか。これは後に述べる「幻」という曲とリンクしていることもあり、このアルバムの中では重要な役割を担っている。

 

 

さて、前作は『woman's』だったのに対し今作が『mothers』つまり母親になったのにはどのような意味があるのか。それはひとえにアルバム自体の変化ではなく進化だと思っている。

 

今までマイヘアは、椎木知仁の半生を赤裸々に吐露したドキュメンタリーがリスナーの感情を揺さぶってきた。特に恋愛の曲はそれが顕著で、いつしかメンヘラバンドと呼ばれる由縁になっていた。

 

しかし、今回のアルバムでは聴いてみれば分かるように椎木があまり自分のことを歌っていない、むしろ表現者としてさらに幅広い作品を作るという「進化/脱皮」を成し遂げている。

 

 

4曲目「関白宣言」は、そのタイトル通りに少し強引で適当な理由をつけた愛情を歌っており、ポップにまとめられているがおそらくフィクション。次曲も含めてこんな曲も書けるようになったという椎木の成長とバンドサウンドの広がりを感じることができる。

 

5曲目「いつか結婚しても」は、良い意味でマイヘアらしくない正統派の恋愛を歌っている曲で、僕は以前このブログで辛口なコメントをしたこともある。

 

しかし、このような曲が緩和剤のようにマイヘアの鋭い楽曲群に柔らかさを持たせてくれることは確かだ。今まで歪んだ恋愛観を晒してきた椎木が歌うからこそ時に絶大なパワーを宿すのかもしれない。

 

 

 

曲単体ではなく、アルバム全体としての完成度

 

ここからアルバムは大きな転換点を迎える。爆発力のあるマイヘアらしい楽曲から、お得意の恋愛の楽曲、そして今作の秘められた全貌が後半に進むにつれ明らかになっていく。

 

 

6曲目「元彼女として」では、強烈な1フレーズを挟んで毒の詰まったビスケットのような女の子の日常がテンポ良く綴られている。

 

恋愛なんて疲れたの もう何も信じないわ

 

彼らの1枚目のアルバム『narimi』に収録されている「元彼氏として」の主人公とは対極に位置する強い女の子がドレスを着てヒールで闊歩するジャケ写のイメージが浮かんだ。

 

7曲目「僕の事情」は、マイヘアのアルバムでは必ず挿入される30秒足らずの短曲で、体温の感じられない朗読とサウンドコラージュを取り入れた新しい試みだ。これが次曲への最高のバトンになって繋がっていく。

 

8曲目「噂」も、46秒のハイテンポな曲であるが元はもう少し長めだったらしい。これは駆け落ちの曲で、またしてもフィクションの話。ちなみに1曲目にするか悩んだという。

 

コード進行から前アルバムの「革命はいつも」を連想させるサウンドだが、さらに重厚感が凝縮され今までの流れを断ち切るようなやまじゅん(Dr.)の骨太なドラミングが目立つ。前曲も含めてここから後半戦、アルバムは大きな転換点を迎えていく。

 

 

ここまで書いてきて、進化といっても前作『woman's』を曲単体で超えていくという意味ではなくアルバム全体としての流れやクオリティの総合力で勝っているように感じた。

 

たしかに前作はマイヘア史上でも傑作と呼ばれる曲たちが肩を並べ、すべてキラーチューン的な実力を備えていた。シングルカットして小分けに出せばしばらくバンドとしての寿命を延ばすことも出来たろう。

 

それをしなかったのは常に上を目指す者として、通過点でしかなかったからだ。また椎木はインタビューで「最近ライブの自分と曲を作る自分が離れているから、ライブの絵が見えない」と語っていたことがあった。

 

しかし、それは逆を言うと表現者として1つステージを上がったということを意味する。椎木がロン毛時代にKEYTALKのオープニングアクトで尖ったライブをしたときは相手にされず、伝えたいことが適切な形で伝わらないことへの違和感を感じたこともその要因にあたる。

 

おそらく2016年のメジャーデビュー時に勝負にでた「戦争を知らない大人たち」を発表したときと同じ気持ちなのだろう。前作アルバムの王道な圧倒的ロックバンドとしての殻を破り、彼らは一歩踏み出すことを選んだ。

 

 

9曲目「燃える偉人たち」は、 お馴染みのラップメタル調の曲で前作「ワーカーインザダークネス」や前々作「マイハッピーウェディング」の流れを踏襲しつつ、ディスと遊び心が融合した刺激物へと昇華している。

 

家族彼女友達

全世界が総立ち

バニラチョコストロベリー

マリア君の微笑み

 

まるでストリートのラッパーが即興で考えついたようなリリックの押韻を多用しつつ、意味深な内容。このフレーズは元々この曲から前述した「僕の事情」へ派生したらしい。

 

10曲目「こっちみてきいて」の、可愛さ加減はハンパじゃない。愛されたいから愛しているという椎木の感覚がバチっと歌詞にハマっている曲で、こんな健気な男の子を安易に想像できてしまうから仕方ない。

 

これは3rdシングル『時代をあつめて』に収録されている「最愛の果て」という曲をさらに掘り下げていて、健気と書いたが実際は捨てられるのが怖くてカノジョの言うことを何でも聞いてる犬を彷彿とさせる。かつて女のヒモだった椎木の得意分野の一つだ。

 

 

 

終わりと始まりから宇宙を描く

 

こうして書いてみると、アルバムレビューというのは文章の配分がいかに大切かということを思い知らされる。

 

今作「mothers」では書きたいことがほぼラスト3曲に集中していたため、前半を早足でまとめる感じになってしまった。それだけここから終盤に畳み掛ける3曲にアルバムの真価が表れているといっても過言ではない。

 

 

11曲目「永遠の夏休み」は、椎木の少年期の記憶と情景がポエトリーリーディングで淡々と歌われており、このアルバムの中で大きな線と線の収束点であるような役割を担っている。

 

朝顔。ラジオ体操。残った宿題。野球。机に置かれた飯代。二階の学習塾。商店街。霊きゅう車。ゲーム機。ぬるい麦茶。友だち。駄菓子屋のおばちゃん。鬼ごっこ。家族。遊園地。ソフトクリーム。メリーゴーランド。

 

こんな短い単語をスピード感を保ちながら踏んでいき、なおかつ情景を超えたリアルな真理を暴いていくのが凄まじい。歌詞量はとうに2ページ目をぶち抜き、終盤でこのフレーズにたどり着く。

 

僕はずっと同じところを回っている

そしていつか終わりが必ずやってくる

 

これはこのアルバムで何度も叫ばれてきた大きなテーマで、「復讐」「運命」「熱狂を終え」でも同じように触れられている。この終末論は椎木がポリープ治療のために沈黙期間に入っていた今年の1月から駆られていたどうしようもない不安から起因している。

 

今は人気でもいつかどうせ飽きられる。愛しているのにいつかどうせ裏切られる。そのようなマインドを常に抱えている彼特有の気質のせいか、今作では「いつか終わりが来てしまうこと」が作品に色濃く反映されている。

 

12曲目「幻」では、そんな終わりを男女の別れに置き換えて女性目線からその儚さを優しいメロディに乗せて歌っているわけだ。これはポリープを取った後にすぐできた1曲目で、その後かなり加筆修正を加えているという。

 

「運命/幻」としてシングルカットされたときは誰しも「運命」に対するアンチテーゼのような曲だと思っていた。しかし、実際は「幻」の方が先にできて、そこにリンクさせる形で「運命」を作ったというのだ。これだと単なる恋愛の曲だと謳うことはできない。

 

幻みたいになっていくんだね

恐ろしいぐらいに冷めていたね

「もしもあの時泣いてたらどうしてた?」

そう言えば もう朝だ

 

これはきっと、今を生きている若者が誰しも抱える不安なのではないだろうか。どんなに全速力で生き急いでいても、どうしても将来のことが頭を過ぎってしまう。いつか終わりを迎えて、その時のことがまるで幻だったように夢で思い出してしまう。そんな印象を感じた。

 

そんな人生の無常さや寂寥さを引っくるめて丸ごと歌っているのが最後の曲だ。

 

13曲目「シャトルに乗って」は、アルバムを締める曲で椎木も当初からこれを最後に持ってくる気持ちがあったという。今まで繋げてきたテーマを束ねるマイヘアなりの答えになる曲で、とことん大きな世界のことを歌っている。

 

街を壊した怪獣は玩具になっている

殺人も地震ももう随分慣れてしまっている

 

どこか「戦争を知らない大人たち」のような攻めた雰囲気を感じられ、今まで自分のことしか歌ってこなかった椎木がステージと離れたところで世界を冷静に俯瞰している。

 

犬や猫を撫で他の肉を食べるし

彼女が妊娠か…なんて頭を抱えてる

教科書で地球の歴史を見た

僕は端っこの方にいた 時計は進んでいた

 

ただ時代が移ろっていき、ただ出会いと別れが繰り返されていき、ただ年をとっていく。

 

そんな虚しい世界の構造から彼なりの感性で宇宙を描いていく。それは椎木自身がそのようなことを歌える段階にきたからだ、と語っており勢いがある今だからこそ歌う価値があると思う。

 

僕らただ笑っている たまに泣いている

まだ悩んでいる 少し堪えている

時代は変わっていく 争いは続いていく

愛し合っている だから手を繋いでいる

今日もありがとう また明日ね

 

このような歌詞は彼らしくないのだろうか。人気がある今、ファンの皆が望んでいるような曲を書かなくちゃならないのか。そうじゃない。

 

この感覚を、ディッキーズ履いて振付踊っている人たちを、こっち側に引っ張り込みたいという椎木なりの勝負でもある。メジャーデビューのとき、そして武道館2daysが決まって人気の絶頂にいる今だからこそ、マイヘアが鳴らすべき音楽というのがここにある。

 

 

女から母親へ。自分のことから世界のことへ。壮大なスケールアップを果たした今作だが、椎木いわくもうすでに次のアルバムを考えているという。

 

毎日ライブハウスでライブをして、時間ができると歌詞を書いて、彼に休む時間はあるのだろうか。ロックバンドは短命というが、マイヘアの場合は少し異常だ。

 

売れる売れないじゃなくて、カッコよくいたいと彼はライブのMCでよく叫んでいる。だからカッコ良いんだよ、マイヘアは。そう改めて思わせてくれるアルバムだった。

 

 

【収録曲】

1. 復讐
2. 熱狂を終え
3. 運命
4. 関白宣言
5. いつか結婚しても
6. 元彼女として
7. 僕の事情
8. 噂
9. 燃える偉人たち

10. こっちみてきいて
11. 永遠の夏休み
12. 幻
13. シャトルに乗って

 

 

マイヘアの記事はこちらもどうぞ↓

 

zenkyu.hateblo.jp

zenkyu.hateblo.jp